報道関係

2009年(平成21年)12月27日(日曜日) 日本海新聞
 連載・特集

社会を見つめる いのち伝える
 鳥大3人娘飲酒運転犠牲から10年

 本紙では来年にかけて「社会をみつめる」のテーマで連載企画を組む。プロローグとなる第1弾は、10年前に飲酒運転の犠牲になった鳥大生3人の遺族の思いや活動を通して、飲酒運転の撲滅や犯罪被害者支援のあり方について考えてみたい。

 (6)支えられて
事故を風化させないよう、智頭町民の芦田さんや遺族は現場付近に花などを飾る=12日、鳥取県智頭町市瀬
娘の死無駄にしない

 10年前に二十歳の次女・真理子さんを飲酒ドライバーに奪われた江角由利子さん(61)=島根県斐川町=は「同じような思いをする人が出ないように」と全国を講演して回る。これまでに40回以上を数える。「いろんな方とのご縁があって、今の私がある」と言う。事故の現場となった鳥取県内のかかわりのある人たちを訪ねた。

目撃者も後遺症

 鳥取県智頭町郷原の田中恒明さん(32)と同町南方の日ノ丸バス運転手、芦田正博さん(44)はそれぞれ10年前、仕事の行き帰りに事故直後の現場に遭遇した。

 加害者の車の後方を走っていた田中さんは、智頭トンネル入り口付近の非常電話からいち早く119番通報した。転覆して大破した軽乗用車の中に亡くなった3人を含む4人が閉じ込められており、救急車が到着するまでの約10分間、声を掛けるくらいしかなすすべがなかったという。

 彼女らと同世代。昨年9月、出雲市で江角さんらが開いた「生命(いのち)のメッセージ展」に出掛け、「鳥大3人娘」のオブジェの前で「助けてあげられなくてご免」とわびた。毎年クリスマスには、現場に花を供えている。

 芦田さんは、現場の悲惨な状況を見て「これはもうだめだな」と思った。一人だけかすかに動いたので「一人だけでも助かってくれ」と祈った。「なぜ『全員助かってくれ』と祈らなかったのか。いまだに後悔しています」と振り返る。以来、毎日通勤の行き帰りに現場で車を下り、線香をあげる。

 江角さんは「その場に偶然居合わせた方々にもどれほどの後遺症を残したか、考えさせられました」と話す。

 芦田さんはこの春、飲酒運転の検挙率で「智頭町が鳥取県内ワースト2位」との新聞記事を目にした。「それまでは人目を気にしながら花や線香を供えていましたが、今は自分の姿を見て一人でも飲酒運転をやめてくれという思い」と精悍(せいかん)な顔で語った。

 鳥取市吉成の小林京子さん(67)は3年前、夫を脳出血で突然亡くした。「お別れを言えなかった死」に心を病んだ。智頭病院の当時の院長からカウンセリングを受け、癒えない悲しみに耐えながら活動する江角さんのことを聞かされた。以来、メールで江角さんとやり取りしている。「真理子さんはお母さんと一緒に生きている」と書き送る。

天国から娘の声

 今月12日、江角さんと大谷静夫さん(60)、浩子さん(53)夫妻の遺族3人が現場を訪れ、花や「3人娘」の名前入りのハートを飾った。フラワーポットに立てた4本の風車がくるくると回り、江角さんには「ここにいるよ、お母さん、ありがとう!」と聞こえた。

 もう一人の遺族の大庭茂彌さん(62)=福岡県前原市=に活動の原動力を聞いた。「娘が天国から『お父さん、なにしょうと』と言っている気がします。娘たちは死を通していろんなところで貢献していると思う。それを無駄にしないのが親の務めです」−。(おわり)

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