報道関係

2009年(平成21年)12月25日(金曜日) 日本海新聞
 連載・特集

社会を見つめる いのち伝える
 鳥大3人娘飲酒運転犠牲から10年

 本紙では来年にかけて「社会をみつめる」のテーマで連載企画を組む。プロローグとなる第1弾は、10年前に飲酒運転の犠牲になった鳥大生3人の遺族の思いや活動を通して、飲酒運転の撲滅や犯罪被害者支援のあり方について考えてみたい。

 (4)メッセージ展
市内全児童による約5000羽の折鶴が飾られた「生命のメッセージ展in前原」=07年10月、福岡県前原市の前原小(photo by noriot)
福岡3児犠牲で決意

 犯罪や交通事故、いじめなどで理不尽に命を奪われた被害者が主役のアート展「生命(いのち)のメッセージ展」。会場には被害者らの等身大のオブジェと生きた証しとしての靴や写真が展示され、命の尊さを伝える。

 同展は、大学入学直後の一人息子を飲酒無免許ドライバーに奪われた、神奈川県の造形作家、鈴木共子さんが2001年4月に東京で初めて開いた。以来これまでに全国で73回開催された。参加するオブジェは増え続け、現在139命(めい)を数える。

 飲酒運転の犠牲になった「鳥取大学3人娘」は01年7月の第2回浜松会場(静岡県)から参加している。

全児童が折り鶴

 そのうちの一人、大庭三弥子さんの父親・茂彌さん(62)は07年10月、大庭さんの母校の前原小学校(福岡県前原市)で自ら実行委員長になり、生命のメッセージ展を開いた。06年8月に福岡市の海の中道大橋で起きた飲酒運転による3児死亡事故を受けて「今やらなければ」と決意した。

 会場の前原小学校は学校ぐるみで協力。学年ごとにテーマを決めて事前に命の学習が行われた。前原市内4500人の児童一人一人が折り鶴を折ってくれ、同小の5年生が折り鶴をつなげ、会場に飾った。

 前原西中学校の2年生も命の学習をし、2年の女の子4人が夏休みのバザーの収益金を「メッセージ展に使ってください」と届けてくれた。茂彌さんは「子どもたちに命の大切さと思いやりを教えることが大事だと痛感した」と言う。

 地元で同展を開いて以来、飲酒運転事故の遺族の声を聞かせてほしいと、茂彌さんに講演依頼が相次ぐ。県警や博多区役所の交通安全イベント、犯罪被害者支援センターの弁護士の勉強会、裁判所事務官の研修会など、2年間で約10回講演した。

「逃げ得」が課題

 この10年間で社会の飲酒運転に対する目は厳しくなり、危険運転致死傷罪の新設や道路交通法の厳罰化の影響もあって飲酒運転による死亡事故は減少した。半面、飲酒・ひき逃げの「逃げ得」という新たな課題が生じた。

 03年11月、鹿児島県奄美市で起きた飲酒運転による死亡事故は、加害者が逃げて4時間半後に出頭したとき、呼気から検出されたアルコール濃度は酒気帯び運転となる1リットル当たり0・15ミリグラムをぎりぎり超える数値に低下し、判決は懲役3年だった。

 茂彌さんは逃げ得を「一番卑劣な方法」と憤る。法の厳罰化の一方、車の安全システムづくりの必要性を感じている。自動車関連会社の社員を対象にした講演などで、アルコールを検知するとエンジンがかからない車や、車間距離が一定以上に縮まると自動的にブレーキがかかる車の実用化と普及を訴えている。

 一方、江角真理子さんの母親・由利子さん(61)は「加害者、被害者、保護司の接点はまったくありません。刑務所も加害者が被害者のことを知らずに矯正教育をどうやっているのか疑問です」と指摘している。

<(3)厳罰化(12/24) (5)母親の手記(12/26)>
 

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