報道関係

2009年(平成21年)12月24日(木曜日) 日本海新聞
 連載・特集

社会を見つめる いのち伝える
 鳥大3人娘飲酒運転犠牲から10年

 本紙では来年にかけて「社会をみつめる」のテーマで連載企画を組む。プロローグとなる第1弾は、10年前に飲酒運転の犠牲になった鳥大生3人の遺族の思いや活動を通して、飲酒運転の撲滅や犯罪被害者支援のあり方について考えてみたい。

 (3)厳罰化
亡き娘・三弥子さんの思い出のアルバムを見る大庭茂彌さん、由美子さん夫妻=13日、福岡県前原市の自宅
一人の命が刑1年

 年が明けて2000年2月、業務上過失致死傷などで起訴された加害者の男性の裁判が鳥取地裁で始まった。4月の判決公判で裁判官が言い渡した判決は懲役3年(求刑懲役4年)。裁判官は「被告はこれまでにもたびたび飲酒運転をしており、3人の将来性ある学生の命を奪った罪は重い」と述べた。

 亡くなった江角真理子さんの母親・由利子さん(61)は「3人で割ると1人の命が懲役1年。20年育てた命を奪われ、その先60年は生きられただろう命、子どもを産み何代も続いたであろう命を絶たれ、それがたったの1年とは」と述懐する。

 由利子さんは当時、入会した全国交通事故遺族の会を通じて1999年11月に東京・世田谷の東名高速道路で飲酒運転の大型トラックに追突され、3歳と1歳の娘を奪われた千葉市の会社員、井上保孝さん、郁美さん夫妻や、00年4月に一人息子を飲酒無免許ドライバーに奪われた神奈川県座間市の造形作家、鈴木共子さんと知り合う。

3遺族で3万署名

 鈴木さんが00年6月から始めた悪質運転事故の厳罰化を求める署名活動に、井上さん夫妻が共感して輪を広げていった。由利子さんも一緒に亡くなった2人の遺族に呼び掛け、3遺族それぞれが知人らを通じて計3万人の署名を集めた。

 全国では37万人の署名が集まり、00年12月、危険運転致死傷罪が刑法に新設された。死亡させた場合、最高刑15年(05年刑法改正でさらに引き上げられ同20年に)と従来の業務上過失致死傷罪の3倍に引き上げられた。

 由利子さんは「危険運転致死傷罪が新設された時には、これだけ適用のハードルが高いとは思いもしませんでした」と話す。

 同罪は事故当時、運転できないほど酒に酔っていたことを立証する必要があるほか、呼気から検出されるアルコール濃度を下げてから出頭する、飲酒・ひき逃げの「逃げ得」という新たな課題も生んだ。

出所後、突然訪問

 鳥大生3人の加害者は車の任意保険に加入しておらず、自賠責保険からのみ保険金が支払われた。3人の遺族は損害賠償請求の民事訴訟も検討したが、3人の命をお金に換算するのは忍びないと断念した。

 加害者は服役中、何回か遺族に謝罪の手紙を送ってきた。出所数カ月後には、福岡県前原市の大庭茂彌さん(62)、由美子さん(58)夫妻宅を突然、数人の親族と一緒に訪ねてきた。茂彌さんは「娘たちはもう返らんとやから、二度と同じ行為はしないでくれ」と言ったことだけを覚えている。

 加害者はこの後江角さん、大谷知子さんの自宅(ともに島根県斐川町)にも謝罪に行くことを告げ、大庭さん宅を後にした。両家の家族は外出中で、会えなかった。3遺族ともその後、加害者との接点はない。

 由美子さんは「もう顔は見たくない一方、手紙でもいいから誠意を示してほしいという複雑な気持ちです」と話している。

<(2)心的外傷(12/23) (4)メッセージ展(12/25)>
 

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