山本空外先生は旧制松山高校の学生時代に、目前の利害に迷い、自分勝手と対立をくりかえす生き方は、大半の人々がそうであっても生きる値打ちがないと考えて、人生の根本問題に取り組まれました。18才の時、いのちがけで真実の生き方を求めて修行され、大悟を得られました。

東大で哲学を専攻された後、大学教授として、西洋の哲学や思想はもとより、東洋の思想についてもたぐいないほど深く研究され、東洋と西洋の思想が結び合うこの上ない教えであり、すべての人々の生き方の光ともなる「無二的人間の形成」を確立されました。

「無二的の二とは、わかりやすく言えば、自分と相手と言えます。その相手が人のときもあり、国のときもあり、物、道具、機械のこともありますが、ともかく相手を生かしきっていくのは、自分の心の深さによるのほかありません。相手を生かしていき、自分のはたらきも実るのを『無二的』というので、反対に相手を自分勝手にして相争い、ともだおれになることは極力いましむべきでしょう」と無二的人間について述べておられます。

もっともすぐれた哲学者として、学問の研究に打ち込まれるとともに、18才から昼も夜もたえまない宗教的精進によって、空外先生は無二的人間の生き方を身をもって示され、その尊いお暮らしを敬慕する人々は、全国に数え切れません。

空外記念館には、空外先生が「無二的人間」を求道なさるお暮らしの中で、自然に蒐まり、求道の心の糧となさった尊い文化資料、美術工芸品、学術文献とともに、空海、慈雲、良寛と等しく、いのちが躍動する心の書といわれる空外先生の書を収蔵し、展示いたします。

科学が進歩し、経済が豊かになっても、心の荒廃は進むばかりの今の世に、この記念館において空外先生の尊いこころの華に接して、入館される人々がそれぞれに、いのちの実りを全うされる無二的な生き方の出発点となりますように念願いたします。

空外先生を敬慕する人々の願いをお聞き届けになって、自ら巨額の浄財を捧げられ、千年の後に教えを伝えるために千年の風雪に耐える木造の建築をもって設立されたこの記念館は、真実の幸福と平和の道を照らす、永遠の大燈となるでしょう。



 
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