報道関係

2009年(平成21年)4月3日(金曜日) 朝日新聞
意見等聴取制度 受刑者の仮釈放審理に際して、被害者や遺族らが審理を担当する地方更生保護委員会に意見を伝える制度。受刑者の更生保護の段階でも被害者を支援することを決めた国の「犯罪被害者等基本計画」に基づく。
 受刑者の仮釈放をめぐり、犯罪被害者の思いを聞く「意見等聴取制度」が07年に始まったが、うまく機能していない。仮釈放されるかどうかの審理結果は被害者に伝えられるが、審理内容は非公開。意見を述べた被害者からは「決定に至った理由を教えてほしい」と不満の声が上がる。そもそも周知不足で、制度を利用する被害者は少数にとどまっている。(徳永悠)

 仮釈放を審理するのは、全国8カ所にある地方更生保護委員会。担当地域の受刑者の生活態度や反省の程度などを考慮し、「社会に出て更生したほうがよい」と判断した場合に仮釈放を認め、刑期満了を前に社会復帰を許す。審理結果は、各地の公正保護委員会から被害者に知らされるが、委員の意見など具体的な内容は明らかにされない。
 法務省保護局によると、聴取制度が始まった07年12月〜08年12月の被害者の聴取件数は219件(書面133件、口答86件)。事件の内容は交通事故が約30%、傷害と詐欺が各約15%、性犯罪が約10%、その他が30%という。覚せい剤取締法違反など被害者がいない事件が多いこともあるが、年間約1万8千件ある仮釈放審理に対し、聴取件数は極めて少ない。
 そもそも被害者が意見を伝えるには、仮釈放審理が始まったことを知る必要がある。そのためには事前に、受刑者の近況が被害者側に伝えられる「被害者等通知制度」という別の制度の利用を、事件を扱った検察庁に申請しておかなければならない。そうでなければ、知らない間に審理が行われ、受刑者が出所することもある。
 
 近畿2府4県の審理を担う近畿地方更生保護委員会の担当者は「被害者の意見の多くは仮釈放を望んでいない。制度を知った被害者からは『なんでもっと早く教えてくれなかったんだ』という反応も目立つ」と話す。法務省保護局総務課は「被害者が立ち寄りやすい裁判所や警察署などに聴取制度を知らせる冊子を配布し、ホームページで広報に務めたい」としている。

 福島県猪苗代町の磐越道で05年4月、高速路線バスが中央分離帯に衝突する事故があった。この事故で、鳥取県米子市の米原美由紀さん(36)はバスに乗っていた父(当時56)を失い、妹(26)は意識不明の重体になった。2人は、同市の自宅から妹が通信制で学ぶ大学がある仙台市へ桜を見に行く途中だった。
 妹は植物状態といわれる遷延性意識障害と診断され、自宅での看病が続く。
 バスの運転手は時速98キロで運転中に、運転席近くの小物入れの扉を閉めようとして事故を起こした。05年10月、業務上過失致死傷の罪で禁固4年4カ月の判決を受け、西日本の交通刑務所で刑に服している。
 昨年12月、米原さん宅に地方更生保護委員会から封書が届いた。元運転手の仮釈放審理を始めたという知らせと「意見等視聴制度」の案内だった。妹の看病があるため、意見はA4判の紙9枚の手紙で伝えた。
 「せめて刑期いっぱいは受刑者に罪を悔い改める機会を与えて下さい。それをそれを要望することしかできない私たち被害者を見殺しにしないで下さい。一生身動きがとれない妹は比べものにならないほど苦しんでいます」。そう訴えた。
 最後の文章は受刑者にあてた。「春が過ぎ、夏が来て、秋となり、冬を越える。しかし、私たちはあの春の日で時間が止まったままです」
 今年2月、仮釈放はしないという知らせが届いたが、理由は記されていなかった。
 米原さんは語る。「手紙に込めた気持ちが伝わったなら、大きな一歩。だけど、事故を思い出して、その手紙を書くのにどれだけの苦しみが伴うか、知っている人は少ないでしょう。せめて仮釈放しなかった理由だけでも教えてほしい」
 

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