報道関係

2012年(平成24年)8月2日(木曜日) 毎日新聞
追跡2012:犯罪被害者支援ボランティア
「事件を思い出させない」が大切 /島根

 ◇「私たちを必要としない」のがベスト
 県内で起きた犯罪の被害者を支援する「島根被害者サポートセンター」(角南譲・理事長)が設立から4年を迎えた。7月には5期目となるボランティアの養成講座が始まり、松江市などから約20人が参加した。被害者支援の取り組みを追った。【目野創】
 サポートセンターは、県警本部内にあった「島根犯罪被害者相談室」を前身に08年4月、民間のボランティア団体として設立された。09年には社団法人となり、現在はいきいきプラザ島根(松江市東津田町)内に事務所を構えている。
 被害者支援は、電話や面接での相談の受け付けから始まる。その後必要に応じ、検察や裁判所への付き添い▽裁判の代理傍聴▽心理的なカウンセリング▽関係 機関への橋渡し−−などを担う。業務の中心はボランティアの支援員。毎年養成講座を開いており、5回の講座や実習などを受け、正式な支援員になる。現在、 約30人が支援員として活動している。
 ◆昨年度は相談100件
 サポートセンターに昨年度、寄せられた相談は電話を中心に約100件。交通事故や性的被害、詐欺などの内容だった。中でもきめ細やかな支援が必要なのは性的被害に遭った被害者だ。
 設立当初からの支援員、足立幸枝さん(72)は、これまで3人の性犯罪の被害者女性を支援してきた。3人はいずれも事件のショックから精神のバランスを崩しやすく、極端に男性を避けるようになっていたという。
 被害者がいつパニックを起こすか分からないので、付き添いの際は薬の準備を欠かさない。被害者が「緊張しているな」と感じたら、そっと手を握り、時にはぎゅっと抱きしめてあげるという。
 事件をフラッシュバックさせないよう、事件の内容については一切触れず、できるだけ男性が被害女性の視界に入らないように心がける。「私たちに相談する だけでも被害者にとって勇気がいること。その気持ちを受け止め、いかに安心してもらうかに全力を尽くさなくてはいけない」
 そんな足立さんでも失敗はある。裁判に付き添った際、被害者を安心させようと後ろから抱きしめた。だが抱きしめたことで、事件を思い起こさせてしまった のか、逆に被害者に恐怖心を与えてしまったという。「被害者の気持ちを理解することがいかに難しいか実感した。今でも反省している」と振り返る。
 支援員としての喜びは、被害者が少しでも立ち直り、普段の生活を取り戻してくれることだ。しかし支援が一通り終わると、支援員から被害者に連絡すること は許されない。「『元気にしているのかな』と気になることももちろんあります。でも、私たちを必要としないことが、被害者にとって一番良いことなんです」 と話す。
 ◆早期援助団体目指し
 サポートセンターは今年度中に「犯罪被害者等早期援助団体」の指定を目指している。県公安委員会が決めるもので、指定されれば県内で初めてとなる。
 現在、支援に乗り出す端緒は、被害者からの相談のみだ。それが早期援助団体になれば、被害者同意の上で警察から直接、犯罪の概要や被害者の情報を受けることができる。早い段階で計画的に被害者支援ができ、より多くのサポートにつながる。
 県警広報県民課の森山伸男次長は「県警とセンターの連携が強まり、よりきめ細やかな被害者支援ができる」と語る。
 これに対しサポートセンターの岡村弘・事務局長は「(指定されると)より被害者からのニーズに応えるようになる。犯罪被害に苦しむ人が少しでも減るように、これからも努力したい」と力を込める。
 サポートセンターの電話相談は、フリーダイヤル(0120・556・491)。受け付け時間は平日午前10時〜午後4時。
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 ◇娘を失った母の苦しみ ショックで精神不安定に
 島根被害者サポートセンターは、ボランティア支援員の養成講座で犯罪被害者らから思いや意見を聞く場を設けている。
     ◇
 99年12月、出雲市斐川町の江角由利子さん(64)は、次女真理子さん(当時20歳)を亡くした。真理子さんは車に乗っていたところ、飲酒運転の車に正面衝突され、友人2人と犠牲になった。
 幸せだった江角さんの生活は一変した。娘を失ったショックで、精神的にも不安定になり、普段通りの生活ができない。「なぜ、うちの子が」「代わりに私が死ねばよかった」。夜も眠れず、何をするのも苦痛だった。
 知人に会うのを避け、買い物もわざわざ遠くの店まで出かける。加害者の車と同じ鳥取ナンバーの車を見るだけで気分が悪くなった。「地獄のような日々でした。真理子が生きていた時の幸せな生活に戻りたかった」と振り返る。
 江角さんは県内外で講演し、被害者遺族の苦しみを伝える。「大勢の人の前で話すと、『立ち直った』と思われてしまう。でも娘の死から立ち直ることはありません。遺族の苦しみは死ぬまで続きます」。活動を続けるのは、悲惨な事故をこれ以上増やさないためだ。

8月2日朝刊

 

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