報道関係

2009年(平成21年)12月28日(月曜日) 日本海新聞
 連載・特集

社会を見つめる いのち伝える
 鳥大3人娘飲酒運転犠牲から10年

 本紙では来年にかけて「社会をみつめる」のテーマで連載企画を組む。プロローグとなる第1弾は、10年前に飲酒運転の犠牲になった鳥大生3人の遺族の思いや活動を通して、飲酒運転の撲滅や犯罪被害者支援のあり方について考えてみたい。

 被害者の痛みに想像力を
 鳥取県智頭町の国道53号で起きた、飲酒運転の乗用車が軽乗用車に正面衝突し、鳥取大学の女子学生3人が死亡する事故から10年の歳月が流れた。遺族たちの「あの日が近づくと気分が落ち込んでしまう」、偶然現場に居合わせた人たちの「忘れたくても、あの光景は目に焼きついている」との言葉に、事故の後遺症の深刻さを痛感した。

 事故を風化させてはならない。貴重な教訓として、飲酒運転の撲滅や被害者支援の充実に生かしたい。

「逃げ得」の不条理

 この10年間で社会の飲酒運転に対する目は厳しくなり、危険運転致死傷罪の新設や道路交通法の厳罰化の影響もあって飲酒運転による死亡事故は減少した。全国各地で犯罪被害者支援センターが立ち上げられ、支援体制も整いつつある。

 だが、なお課題が残る。第一に飲酒・ひき逃げの「逃げ得」という新たな課題が生じた。

  2003年11月、鹿児島県奄美市で起きた飲酒運転による死亡事故は、加害者が逃げて4時間半後に出頭した時、呼気から検出されたアルコール濃度は酒気帯び運転となる1リットル当たり0・15ミリグラムをぎりぎり超える数値に低下し、危険運転致死罪は適用されなかった。業務上過失致死罪と道交法違反(酒気帯び運転)で懲役3年の判決だった。

 奄美市の事故の遺族らが中心となって飲酒・ひき逃げ事案の厳罰化を求める署名活動を展開。これまでに44万人の署名が集まっているという。厳罰化だけで問題は解決しないが、逃げてアルコール濃度を下げてから出頭した方が刑の軽くなる不条理は改めたい。

矯正教育充実を

 刑務所などでの矯正教育の充実も課題だ。再犯を防ぐため、手に職をつけるだけでなく、被害者がどう生きてきて遺族がどれほど傷ついたか、被害者側と向き合わせる矯正教育が求められる。飲酒運転は常習者で日ごろの飲酒量も多いケースがみられ、禁酒・節酒指導も必要だ。

 一般ドライバー向けには、関係各機関が交通安全イベントを展開する際、個人差はあるものの、飲酒量に対してどれだけの時間、運転を控えなければいけないか、啓発に力を入れてほしい。

 鳥大生3人死亡事故の遺族の一人、江角由利子さん(61)=島根県斐川町=は二十歳で亡くなった次女・真理子さんの除籍手続きを大学でしたとき、職員から「あの時、(車で出掛けずに)家におられたらよかったですね」と言われ、ショックを受けたという。被害者に寄り添う態度を社会全体に広げていきたい。

 被害者の痛みを自分のものとして感じる想像力を持ち、気を引き締めてハンドルを握り、飲酒運転の被害者をはじめ、かけがえのない人を亡くした人たちの心中を思いやりたい。

 
江角さんが事故から10年後の今年つづった手記『30歳の真理子へ』の一節を紹介する。〈あなたの子どもが見たかった、この手に抱きたかった。−略−どうか、この世の中でこんな想いをする人がいなくなりますように。−略−もう一度、会いたい!〉

 

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