報道関係

2007年(平成19年)11月25日(日曜日) 山陰中央新報
「生命のメッセージ展」計画
島根県内の犯罪被害者遺族
鈴木共子さんの講演会場で、交通事故などで亡くなった犠牲者のオブジェを並べ「生命のメッセージ展」の開催をPRする江角由利子さん=11月10日、松江市袖師町、島根県立美術館
 殺人や交通事故で家族を失った島根県内の遺族が、犠牲者の生き様を通して命の尊さを伝えようと、山陰両県で初めてとなる「生命のメッセージ展」を来年九月に出雲市内で開催することを計画し、準備を進めている。

  遺品展示、命の尊さ訴え

 生命のメッセージ展は、飲酒運転の車に一人息子を奪われた神奈川県の造形作家鈴木共子さん(58)が2001年に企画。犠牲者をかたどったオブジェや遺品、遺族の思いをつづった文章などを展示し、犯罪や事故の悲劇、命の尊さを訴えている。これまでに全国の犯罪や事故の犠牲者百三十人の遺族が参加して、四十四カ所で開かれた。
 島根県での開催を計画するのは、一九九九年に飲酒運転の車に激突される事故で、次女真理子さん=当時(20)=を亡くした同県斐川町の江角由利子さん(59)。
決して癒されることのない事故の記憶の中で、飲酒事故の厳罰化を求める活動に身を投じ、〇一年からメッセージ展に参加してきた。

 同展は、真理子さんと同じ車に乗車中の事故で長女知子さん=当時(21)=を亡くした同町の大谷浩子さん(51)、〇五年に殺人事件で夫を亡くした浜田市の石川俊子さん(38)の二人に呼び掛け、準備を進めている。真理子さんをかたどったオブジェに、生前履いていた靴,成人式や旅行先での写真を飾り、夢や希望にあふれた将来を奪われた悲劇を伝えてきた江角さんは「亡くなった命は再生できない。犠牲になった人たちの生きた証し、命の大切さを多くの人に伝えたい」と同展に込める思いを話す。

十一月二十五日から始まる「犯罪被害者週間」に合わせ、遺族たちのいまを取材し、思いを聞いた。



遺族の思い  今日から「犯罪被害者週間」

「なぜ娘が」答え出ぬまま  斐川・大谷浩子さん

 斐川町の大谷浩子さん(51)の時計は八年前の「あの日」から止まったままだ。
 一九九九年十二月二十六日未明、鳥取県智頭町のトンネル内で、鳥取大の3年生だった長女知子さん=当時(21)=の乗った車が、中央線をはみ出して対向してきた車と衝突し、知子さんを含む3人が死亡。対向車は飲酒運転の暴走車だった。
 病院からの一報を受け暗い夜道を必死に車を走らせた。何度も道に迷い、やっとの思いでたどり着いた先で、知子さんと対面した。
 「まさか自分の娘が」。目の前の光景を信じられなかった。
 事故に寄って知子さんが歩むはずだった就職、結婚、子育てといった未来への希望がすべて奪われた。「なぜ、助けてあげられなかったか。代わってあげられなかったか」。自分を責めた。
 絶望のふちで、大谷さんが必死に探し求めたのは、知子さんが生きた証し。友だちに宛てた手紙、教育実習の報告書、実習先で知子さんがもらった感謝のメッセージ…。一つ一つ丁寧に描かれたイラストから、周囲への配慮を忘れなかった知子さんの優しさがにじみ、報告書から、夢だった小学校教諭になろうと必死に頑張る姿が浮かび上がった。  「こんなに懸命に生きてきた子がなぜ」と、今もたどり着けない答えを求め、悩む日々は続くが、時は流れ、周囲では知子さんや事故の記憶も薄れていく。飲酒運転による悲劇も一向くなる気配がない。
 だからこそ、知子さんを通して命の尊さを訴える。「こんな子がいて一生懸命生きたということを知ってほしい」

夫の遺志を生かし続ける  浜田・石川俊子さん

 「人の役に立ちたい」。二年前に浜田市で起きた殺人事件で亡くなった夫石川秀治さん=当時(36)=がいつも言っていた願いを、妻の俊子さん(38)は、一体のオブジェに込める。
 二〇〇五年七月二十八日の早朝、秀治さんと長男が自宅前でキャッチボール中、近所の男が長男を車ではね、助けに向かった秀治さんに包丁で襲いかかった。  平和な家庭を突然、悪夢の中に突き落とした悲劇に、俊子さんは事件後、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に陥り、事件を思い出すたびに、悲しみや怒りとともに「なぜ、助けてあげることができなかったのか」と自分を責めて苦しんだ。
 思いを吐露できず、苦しみを抱え込んでいた俊子さんは昨年十一月、犯罪被害者の講演会で江角由利子さんと出会い、命のメッセージ展を知った。
 同展では、犠牲者の命の尊さ、犯罪の悲劇を伝えるメッセンジャーと呼び、新しい命をもった存在として生かし続ける。人の役に立とうと、消防士になった秀治さんの志と重なった。
 今年七月、大阪府であったメッセージ展に初めて参加。展示するオブジェに、秀治さんが中学生時代から一筋に励んだ陸上をしている写真を貼り、足元には人命救助の現場で使った消防靴をそろえた。多くの人が秀治さんのオブジェの前で足を止めて、うなずくのを見て思わず胸が熱くなった。  誠実な人柄で職場の信頼は厚く、息子の成長を一番の楽しみにしていた秀治さんを奪った犯罪。「犯罪の悲しみを伝え、二度と同じ悲劇がなくなれば」。俊子さんは秀治さんとともに願う。

 


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